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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)2022号 判決

原告

北田幸孝

ほか一名

被告

林勲一

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は各原告に対し、それぞれ金一九九五万一一九三円及びこれらに対する平成三年一二月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

普通貨物自動車と自動二輪車の衝突によつて自動二輪車の運転者が死亡した事故において、被害者の遺族が、普通貨物自動車の運転者に対して、自賠法三条に基づき損害賠償を内金請求した事案である。

一  当事者に争いがない事実

1  左記の交通事故(本件事故)が発生した。

発生日時 平成三年一二月三一日午前七時五〇分頃

発生場所 大阪府寝屋川市大字小路一六九番先路上

態様 北田孝紀(亡孝紀)運転の自動二輪車(原告車両)が転倒し、亡孝紀が、対向車線を走行中の被告運転の普通貨物自動車(大阪四七ち三六九七)と衝突した。

2  亡孝紀は、本件事故による傷害によつて、死亡した。

3  被告は、被告車両の運行供用者である。

4  原告らは、亡孝紀の両親であつて、その損害賠償債権を二分の一ずつ相続した。

5  原告らは、自賠責保険金二四一三万七一六八円の支払いを受けた。

二  争点

1  損害一般

(一) 原告ら主張

治療費二万〇二六〇円、諸雑費二万三八〇〇円、文書料一六〇〇円、傷害慰謝料一二万五八〇〇円、逸失利益三三三〇万二三八七円(計算式311万3100円×0.5×(24.126-2.731)、亡孝紀は、本件事故当時阪南大学商学部への推薦入学が決定しており、入学手続きが完了していたから、基礎収入は、大卒男子二〇ないし二四歳の平均賃金を基礎とすべきである。)、死亡慰藉料亡孝紀本人二二〇〇万円、同原告ら固有各二〇〇万円、葬儀関係費原告ら各五〇万円。

(二) 被告主張

治療費、諸雑費、文書料、傷害慰謝料は認め、亡孝紀の推薦入学が決定していたことは知らず、その余は争う。

2  免責ないし過失相殺

(一) 被告主張

本件事故は、亡孝紀がスピードを出しすぎて、走行していたため、バランスを崩し、自損転倒したものであつて、被告には、亡孝紀が転倒、滑走してくることを予見することは不可能であり、被告には過失はなく、被告車両の構造上の欠陥、機能上の障害は本件事故と関係がないから、被告は免責である。

仮に、被告に何らかの過失があるとしても、過失相殺は八ないし九割であるから、原告らには、既払い金を超える損害はない。

(二) 原告ら主張

亡孝紀が転倒したのは、対向車である被告車両が、センターラインを大きく超えて、自車線内に進入して走行してきたのを認め、急ブレーキをかけ、前後輪が同時にロツクしたことによるものであつて、本件事故現場はカーブになつており、亡孝紀が事前に被告車両のセンターラインオーバーを知りえなかつたことから、本件事故は、被告の一方的過失によるものである。

第三争点に対する判断

一  免責及び過失相殺

1  本件事故の態様

(一) 甲一ないし五、検甲一ないし五、乙二、証人安田及び証人中原各証言、原告幸孝、被告各本人尋問の結果によると、以下の事実を認めることができる。

本件事故現場は、片側一車線の西南西から東に伸びるややカーブした道路(本件道路)とほぼ南北に走る直進路の交差した信号機によつて規制された交差点附近で、その概況は別紙図面のとおりである。本件道路はアスフアルトで舗装されており、平坦で、最高速度は時速三〇キロメートルに規制されており、市街地にあつて、交通は普通であり(本件事故直後の実況見分時において、五分あたり七台であつた。)、緩やかなカーブで、西南西方向からも、東方向からも、交差点の附近では、前方を見通すことはできるものの、交差点から遠ざかるにつれて、反対方向は見通しにくい状況であつた。

被告は、被告車両を運転して、本件道路を西南西から東に向つて時速約四〇キロメートル前後で走行していたところ、別紙図面〈2〉(以下、図面は省略し、符号のみで示す。)ないしそのやや南側附近に至り、〈ア〉附近を、特に危険な様子もなく走行中の原告車両を認め、そのまま進行し、〈3〉のややセンターライン寄りで、車体の右端がややセンターラインを越えた位置に至つたところ、〈イ〉附近で転倒する原告車両を認め、急ブレーキをかけたものの、車体が約五センチメートルセンターラインを越える状態の〈4〉附近で、被告車両の右前部が、転倒後飛ばされてきた〈ウ〉附近の亡孝紀と〈×〉附近で衝突し、〈5〉附近で停止した。

亡孝紀は、原告車両を運転して、本件道路を東から西南西に向つて時速五〇キロメートル前後で走行していたところ、〈イ〉附近に至り突然転倒し、亡孝紀は前記の態様で被告車両に衝突し、原告車両は〈エ〉附近に停止し、亡孝紀は〈オ〉附近に飛ばされた。

(二) なお、被告は、その本人尋問において、〈4〉に至るまでに、センターラインを越えたことはないと供述するものの、甲一に印象されたスリツプ痕の位置、角度からすると、少なくとも衝突位置である〈4〉の直前では、〈4〉よりもやや車体がセンターラインを越えていたと推認できるから、被告の右供述は採用できない。

また、原告らは、被告がセンターラインを越えていた程度は大幅であると主張するものの、証人安井及び証人中原の各証言、原告幸孝本人尋問の結果においても、それを裏付けるに足りない(かえつて、証人中原も、被告が本件事故直前左にハンドルをきつたことを前提としても、車体の側面がはみだした幅は、最大二、三十センチメートルに過ぎないと証言している。)。

また、原告らは、原告車両が転倒したのは、センターラインを越えて走行していた被告車両を見て、驚いて、急ブレーキをかけたことによると主張し、甲四、証人中原の証言にはそれに沿う部分もある。しかし、それらの各証拠によるとしても、直接認められるのは、本件道路程度のカーブでかつ原告車両の速度が時速五〇キロメートル前後では、カーブのみを根拠に転倒することはないという事実に過ぎず、そのことに、本件道路程度のカーブであつて、被告車両がセンターラインを越えて走行していたら、亡孝紀は衝突の危険を感じて、急ブレーキをかけるという推測を加え、結論付けているものであるところ、甲四によるとしても、亡孝紀が被告車両を発見した際、原告車両と被告車両の距離は三〇メートルを越える(甲四記載の〈Y〉から〈3〉の距離、〈イ〉から〈X〉の距離、甲一記載の〈3〉から〈イ〉の距離を加えたもの)ものであるし、一般的にハンドル・ブレーキ操作を誤る等して、バランスを失し転倒することもありうるから、右推測は、蓋然性の程度までには至らない。また、仮に、転倒に何等かの影響を与えていたとしても、唯一の原因とまではいえない。

2  当裁判所の判断

右事実によると、被告には制限速度をやや上回つて走行した過失、センターラインをやや越えて走行した過失があるものの、事故状況からして、右各過失が、本件事故との因果関係がない疑いも強く、被告は免責となる可能性も少なくない。しかし、仮に、被告主張のとおり、亡孝紀の転倒に、被告車両のセンターラインを越えた走行を見て驚いたことの影響がある等して、被告が免責とならなかつたとしても、事故状況からして、本件事故は、主に、カーブしていて、遠く見通せない本件道路を走行していたのに、その道路状況に即した速度で走行しないばかりか、制限速度を二〇キロメートル程度越える速度で走行していた上、ハンドルないしブレーキ操作の誤りによつて転倒した亡孝紀の過失の影響がより大きいというべきであり、特に、被告車両がセンターラインを越えた幅、転倒前、亡孝紀が被告車両を発見した際、原告車両と被告車両の距離が三〇メートル以上あつたことを考慮すると、亡孝紀は、やや左にハンドルを切ることで容易に衝突を回避することが可能であつて、そうであるのに驚いたこと自体に、原告車両の減速が不十分であつたこと等の過失が影響していると容易に推認できる。したがつて、過失相殺割合は七割を下らない。

二  原告らの請求について

原告らの主張する各損害の合計から七割を控除すると、それぞれ、既払い金を超える損害はない。なお、仮に、亡孝紀の過失割合を六割としても、亡孝紀の慰謝料は多くとも一八〇〇万円であつて、他の損害が原告ら主張のとおりであつても、被告らの各損害の合計から六割を控除すると、この場合も、それぞれ、既払い金を超える損害はない。

三  結語

したがつて、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。

(裁判官 水野有子)

別紙図面

〈省略〉

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